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担当医からのメッセージ

手術後の傷が目立たないだけでなく、不妊治療にも大きな効果がある腹腔鏡手術。
その第一人者である高橋先生に、腹腔鏡手術における大切なポイントを伺いました。

腹腔鏡手術との出会い

僕が研修医だった90年代後半は、婦人科の腹腔鏡手術といえば、検査目的がほとんどでした。一方、外科では腹腔鏡手術の技術がどんどん向上していて、手術時には他科の研修医もアシスタントとして呼び出されました。特に僕がいた病院では、婦人科研修医が頻繁に呼ばれていましたね。
アシスタントの仕事は、内視鏡を持ったり必要な器具を執刀医に渡したり、といったことです。僕はもともと細かい作業が好きなので、先生方の手術に直接関わる中で、大変よい勉強ができました。
特に、最初に指導してくださった外科の先生が「傷は小さく、かつ少なく」というこだわりを持っていたので、僕も手術後の傷跡をすごく意識するようになりました。

検査時代から治療時代へ

帝王切開など昔からある婦人科の手術では、いかに迅速に苦しい赤ちゃんを助け出せるか?ということに医師は全力投球します。外科では逆に、いかに丁寧に出血させず手術を行えるか?を美徳にしています。 僕は研修医を終えて、外科の方が自分に向いているのではないかと思いました。しかし、大学病院に戻った時、ちょうど婦人科でも腹腔鏡手術を拡大していこうという声が出ていたのです。それまでの検査時代の婦人科腹腔鏡から、治療時代に移り始めていました。そこで先輩たちと一緒に体制をつくり、婦人科における腹腔鏡手術をスタートさせたのです。

頭の中で常に一歩先の準備をする

手術で最も難しいのは、スクリーンに示される2D画面を、頭の中で立体的に描き直すことです。
特に穴を1個しか開けない単孔式の場合、すべての機械が一カ所に集約されるため、前後の出し引きを駆使して一連の作業をやることになります。頭の中に描き出す治療シミュレーションを、90度ひっくり返さなければいけない。これには相当な訓練が必要です。
そのような限られた動作環境を最大限有効に使うためには、常に一歩先の準備をすることが大切です。それも全て頭の中に描く立体空間で、次の動作に必要なものを次々と考えます。

開腹手術よりも早い腹腔鏡手術に成功

どんなに難しい手術でも、最小限の時間で手際よくやることが求められます。
腹腔鏡手術に慣れた医師であれば、穴の数はそれほど問題ではありません。ですので、理論上不可能な場合を除き、僕は基本的に単孔式で対応しています。最近では子宮摘出術の所要時間(皮膚の切開開始から子宮摘出し、 臍の創部閉鎖終完了まで)に、69分間で完了した症例の方もいました。これは一般的な開腹手術の子宮摘出より早いと思います。
もちろん、手術の成功は時間ではなく、術後の経過であることが大前提です。当会では手術後に妊娠して再来院される方も多く、別の医師が帝王切開した際に「手術の痕跡がないくらいきれいでした」と言われることがあります。その瞬間が何より嬉しいですね。

不妊治療を目的とした手術で3人に1人が妊娠

腫瘍を取ることで不妊が改善するケースはよくあります。
しかし通常、不妊治療を行う病院が手術まで手がけることはほとんどありません。不妊の原因となる筋腫や卵巣腫瘍などは、妊娠しやすくすることを目的に治療する場合、一手間も二手間も工夫して手術する必要があるのです。
たとえば卵管が癒着して腫れる卵管水腫は、単に切除すると卵巣にも被害が及びます。そこで卵管と血管を離して卵巣への血流が維持されるようにするなど、本当に一手間も二手間もかけます。
その結果、当会では不妊センターからの紹介患者のうち約3人に1人が手術後に妊娠しています。年齢などの要素があるため一概には言えませんが、不妊センターからの紹介患者さんは概して妊娠しにくい状況ですので、一定の効果があるのだと考えています。

パートナーと一緒に手術に臨んでほしい

不妊治療を目的に手術を受けられる患者さんには、できる限り旦那さんと一緒に事前説明を受けていただいています。手術では、事前の予想と違う病状が発見される場合があり、その場で患者さん本人に意思確認できないことがあるからです。
事前説明ではあらゆる可能性を説明し、ご本人の意向をお聞きするのですが、それでも旦那さんの存在は大きいですね。一緒に手術に挑んでいただくことが、後々プラスに影響することは非常に多いです。
不妊センターの医師との連携、そしてご本人およびパートナーとの信頼関係が、手術後の妊娠率に良い成果をもたらしているのだと思います。

女性の味方となる腹腔鏡手術を追求したい

現在、腹腔鏡手術でできないことはほとんどありません。一部の悪性腫瘍の摘出も、癌の専門医と一緒に行うことで保険診療が適用されるようになりました。(現時点では当院では癌の手術は基本的に行ってません)なので一般の手術と本当に変わらないですね。
腹腔鏡手術は傷跡が目立たない点が最大の利点ですが、それ以上に、見えない部分にもとことんこだわったデリケートな治療技術を、後輩たちにも教えています。日本人は一般的に細かい作業が得意なので、この分野で世界の最先端を担うことも可能だろうと思いますね。
今後も多くの医師とポリシーを共有しながら、真に女性の味方となる腹腔鏡手術を追求していきたいです。